電子工作教材ちょこまカーの極意を伝授

シニア向け解説

 

全体の回路図

ちょこまカーの制御回路全体の回路図を示します。

図:全体の回路図

この回路図は上下で対称になっています。あたかもCMOSロジックのPチャネルおよびNチャネルMOSをそれぞれPNP型とNPN型のバイポーラトランジスタに置き換えたような構造です。

図:電圧アンプ

 ライントレーサーを自動制御の例題と考えれば、左右の光センサーの出力を引き算した誤差信号を作り、それが目標値に収束するように左右のモーターの速度制御を行うところです。 ちょこまカーは電池1本で動作することを目指したので、普通のオペアンプのような差動増幅器を使うには電源電圧が低すぎました。
 電源電圧1.5 Vではなぜ難しいかというと、電源レール間にpn接合が2個以上直列に入ると回路が動作できる電圧範囲がほとんどないからです。 その点でバイポーラトランジスタによるCMOS的な構造では、入力側ではPNPトランジスタとNPNトランジスタのベース-エミッタ間接合が直列に入りますが、出力側は電源レール近傍までスイングできます。 入力側は上下の電源の中心付近に動作点が限定されるものの、ちょこまカーではその制約内でうまく使用することができました。
 またこの回路形式は電源電圧1.5V程度で使うのに実に適しています。電源電圧1.5Vの間にシリコントランジスタのVBEが2個入ると残りは0.3V程度で、この0.3Vの部分に抵抗を挿入してベース電流を調節することになります。 この0.3Vという電圧は低すぎず高すぎずといった絶妙な値と言えます。もし電源電圧が2倍の3Vになったら上下のトランジスタのベース間の電圧は2倍の0.6Vではなく6倍の1.8Vに増加し、ベース間電圧に対する入力電圧変化の割合は格段に小さくなり、その結果ベース電圧変動に対するベース電流変化が小さくなります。つまりアンプの電圧ゲインが下がります。 翻って電源電圧1.5Vの場合は入力電圧に対するベース電流変化が大きいわけですが、それに加え入力電圧が±1.5V以上変化すると上下どちらかのトランジスタはVBEが0.6Vに満たなくなるので急速に電流が減ってOFFになります。つまり自然とAB級の動作になります。 この特徴はベースの電流制限抵抗の値によりません。
 言ってみれば電源電圧1.5Vではトランジスタは電圧制御素子的に動作するのに対し、電源電圧3Vではすでに電流制御素子的に動作することになります。 電源電圧が高い場合に高いゲインを維持するには、入力電圧変化を電流変化に変換するためのエミッタ接地的な要素や電源レール側にはカレントミラーを入れるというような設計が常套手段になりますが、電源電圧が1.5Vだとそういった構造を全部省略することができます。

回路図を機能で区切ってみると次のようになります。

図:機能で区切った回路図

まず左右のセンサーを直列に接続し、それらの抵抗値による分圧点の電位を明暗差信号として取り出します。 ちょこまカーの舵取りに必要な程度の明暗差の変化に対し、この信号をTR1とTR4で電圧増幅した結果の振幅は電源電圧で飽和する程度にまで達します。 ただし、これは電圧アンプの負荷インピーダンスが十分に高い場合です。ですから、モーターを駆動するにはさらに電流増幅を行う必要があります。
 TR1とTR4による電圧アンプのコレクタ側はオーディオアンプやオペアンプの電圧増幅段と同じ構造ですから、この後に電流増幅を行うとすればエミッタフォロワが定番です。しかし、エミッタフォロワを使うには1.5 Vという電源電圧は低すぎます。 つまりモーターをエミッタに接続するとベース-エミッタ飽和電圧だけモーターにかかる電圧が低下するので、モーターに0.7 V程度しか印加できなくなります。 なお、ちょこまカーのモーターはONかOFFで使います。中間の電圧によって中間の速度で回転させるということはしません。これは電源電圧が低いため、中途半端な電圧をかけてもモーターが起動できない可能性が高いためです。
 さて、モーターはエミッタに接続できないのでコレクタに接続することになります。そうすると電流アンプがエミッタ接地になり、トランジスタ1段ではインピーダンス変換作用が不足するのでもう1段追加しなければなりません。 そのとき、これらの2段電流増幅回路がノン・インバーテッド・ダーリントン接続だと、入力電圧に対する不感帯がベース-エミッタ飽和電圧2個分、約1.2から1.4 Vにも達してしまいます。それを避けるためにインバーテッド・ダーリントン接続にしました。 回路図の電流アンプは2個のインバーテッド・ダーリントンに分解することができます。

ところで、ちょこまカーが線に沿って走る原理は、簡単に言えば明るい方のモーターだけが動くというアルゴリズムだと説明していますが、実際には左右の明るさが近い場合には両方のモーターが回っていないと非常に動きがぎこちなくなります。 そうならにように明暗差信号がある電位の幅に入っている時は左右のモーターが両方回るように作ってあります。この幅を決めているのがR1, R4, R5の3つの抵抗です。
 R1によって電圧アンプには負帰還がかかっています。これはCMOSインバータを水晶発振回路に使う場合などにおなじみの構造で、その作用のひとつに直流動作点を安定させる効果があります。 また別の見方をすれば、R1はオペアンプの増幅回路のフィードバック抵抗に相当しますが、入力抵抗はちょこまカーでは省略されていて、それに代わるのは2個の光センサー(CdSセル)の抵抗値を並列にした値です。
 入力抵抗自体が照度で変動しますが、ともかくR1の値を小さくするとゲインが下がります。その結果両方のモーターが同時に回転する明暗差範囲が拡大します。
 ところで上でゲインと書きましたが、このアンプでは電圧ゲインを正確に定義することは困難です。入力抵抗自体が変動するということもあります。またR1は並列帰還回路を形成するのでTR1とTR4によるアンプの入力インピーダンスは低くなります。 そのため、光センサーPS1とPS2の分圧点(A点)にはR1付きのアンプを接続してなければ明暗による電圧変化がそのまま現れますが、接続するとこの点には電圧変化が少なくなり(アンプ出力が飽和していなければほとんど消失し)、アンプの出力(B点)だけが電圧変化するようになります。 つまり、完成したちょこまカーでは、増幅される前の明暗差信号は直接観察できる場所はありません。
 R4とR5は以下の電流アンプをONの方向にバイアスする効果があります。この抵抗を小さくすると両方のモーターが同時に回転する明暗差範囲が拡大します。 R1, R4, R5の値を変えてちょこまカーの運動特性を変化させてみるのも面白いでしょう。