電子工作教材ちょこまカーの極意を伝授

TR1とTR4による電圧アンプ

 

電圧アンプを使う目的

ちょこまカーがコースの真上からずれ始めると明暗差信号が変化し始めますが、電圧の変化はわずかなので、まず変化を大きくする必要があります。それをするのが電圧アンプです。
 このページでは、トランジスタについてだいたい理解しているものとして説明します。トランジスタの作用についてはここを参照してください。

電圧アンプの動作の大まかな説明

ちょこまカーの電圧アンプは2個のトランジスタTR1のエミッタ-コレクタとTR4のコレクタ-エミッタが電源に対して直列に接続されています。その動作を理解するために、まず最初に分圧の式を再確認しましょう。

図:分圧の式の復習

上側の抵抗が高いと分圧点電位が下がり、下側の抵抗が高いと分圧点電位が上がります。

※「電位」というのはある共通の基準(この場合は電池のマイナス側とします)から測った電圧のことです。

次に抵抗器をトランジスタに置き換えてみます。

図:トランジスタによる分圧

ここでトランジスタについてちょっとコメントがあります。 コレクタ電流がベース電流の100倍以上になるというトランジスタの作用は、コレクタに電流を妨げるものが接続されていない場合のことです。 ちょこまカーのTR1のコレクタにはTR4のコレクタが接続されているので、TR1が流したいコレクタ電流がそのとおり流れるわけではありません。そのかわりにつぎのように考えると理解できます。

ベース電流が増えるとコレクタとエミッタの間の「内部抵抗」が下がる。どこまで下がるかというと、コレクタ電流を妨げる電子部品が接続されていない場合にコレクタ電流がベース電流の100倍から数百倍になるまで下がる。

電圧アンプの動作を「内部抵抗」を使って説明するとつぎのようになります。A点電位が上がるとTR1のベース電流が減り、それに連動してTR1の内部抵抗が減り、逆にTR4の内部抵抗が増えます。 その結果、TR1とTR4の内部抵抗による分圧が変化することによってB点電位が下がります。逆にA点電位が下がればB点電位が上がります。 入力電位と出力電位を比べると、変化の方向は逆になりますが、変化の量は増大します。これが電圧アンプの動作です。

次に電圧アンプによって信号電位の変化がどの程度増加するか計算してみましょう。

まずB点より右側を簡単な回路に近似

電圧アンプの動作だけを考えるため、電圧アンプから見た電流アンプを簡単な等価回路(同じ作用をする回路)で近似します。

図:B点から見た電流アンプの等価回路

まずTR2とTR5のベース電位に着目します。ベース-エミッタ間にはシリコンのPN接合があるので、TR2のベース電位はエミッタ電位より約0.6 V低い0.9 Vです。同じ理由でTR5のベース電位はエミッタ電位(0 V)より約0.6 V高い0.6 Vです。 つまりB点から右を見ると、0.9 Vの電源と0.6 Vの電源にそれぞれ10 kΩを通して接続されていることになります。こういう場合、平均した電圧の電源と半分の抵抗にまとめることができます。 結果は5 kΩで0.75 Vに接続されているのと同じです。0.75 VというのはB点から右側の回路が上下対称なことから直感的にも納得できると思います。

一方、A点から左の光センサーは取ってしまい、電圧アンプにはある電圧が入力されるものとします。トリマ抵抗器の調節はセンターになっているとします。そうすると、TR1とTR4のベースにはどちらも25 kΩの抵抗が接続されることになります。またR1も後で考えることにして取ってしまいます。

電圧アンプの動作ー入力電位が上下の中心の場合

ではまず(1)A点に0.75 Vの電位が入力されたとします。上で考えたTR2とTR5のベース電位と同じように、(2)TR1のベース電位は0.9 V、(3)TR5のベース電位は0.6 Vです。TR1のベース電位とA点電位の差は0.9-0.75=0.15 Vになります。
 この電圧が25 kΩの抵抗にかかるときに流れる電流は(4)6 μAです(0.15/25000 = 0.000006)。同じく下側の抵抗に流れる電流も計算すると、やはり(5)6 μAです。これらの電流はTR1とTR5のベース電流でもあります。
 TR1とTR4の直流増幅率、つまりベース電流に対して何倍のコレクタ電流が流れるかという意味ですが、それがどちらも100倍だとします。そうすると、(6)TR1のコレクタ電流は0.6 mA、同じく(7)TR5のコレクタ電流も0.6 mAとなります。 その結果、TR1から出た電流は全部TR5に流れ込みますから、B点より右側の5 kΩには電流は流れません。ある電流が抵抗に流れたときに抵抗に発生する電圧は、オームの法則より、電流値と抵抗値を掛けた値ですが、電流がゼロなので5 kΩの抵抗には電圧は発生せず、B点の電圧は0.75 Vになります。

図:入力電位が0.75 Vの場合の動作を計算する

上下対称な回路に上下の中心の電圧を入力したら、出力電圧も上下の中心の電圧になったという結果なので、直感的にも納得できるでしょう。ですから、もし直流増幅率がTR1とTR4で異なるというような上下の非対称があると、このような結果にはなりません。 ある程度の範囲の非対称はトリマ抵抗器で補正できます。このページの下の方を見てください。

電圧アンプの動作ー入力電位が上がった場合

では、こんどはA点の電位が0.76 Vに変化したとしましょう。さっきと同じように計算していきますあ、その過程は下の図を見てください。

図:入力電位が0.76 Vの場合の動作を計算する

コレクタ電流がTR1では0.56 mA、TR4では0.64 mAに変化したため、その差0.08 mAはB点より右側から流れ込まないとつじつまが合わなくなります。この0.08 mAが5 kΩの抵抗に流れて発生させる電位差(電圧と言ってもいい)は0.4 Vです。 電流の向きを考慮に入れるとB点の方が0.75 Vに対して0.4 V下がります。その結果、B点の電圧は0.35 Vになります。
 入力の電位が0.01 V上がったために出力の電位が0.4 V下がりました。つまり、電圧変化が40倍に増えました。これが電圧アンプの「増幅」作用です。変化の幅(変化の幅は「振幅」といいます)が増えるから「増幅」です。 英語で振幅はamplitude、増幅することをamplifyと言い、増幅する装置をanlifierと言います。それを略して日本ではアンプと呼びます(増幅器という日本語も使われます)。ところで、この電圧アンプは変化の方向が逆になりますね。こういうアンプを反転アンプと言います。
 入力電位が逆に下がった場合については、もう計算してみなくてもわかるでしょう。出力の電位が40倍上がります。

出力の飽和

もし入力の電位が0.77 Vに上がったらどうなるでしょうか。上記のような計算からは、出力の電位は0.75 Vよりも0.8 V下がることになりますが、そうするとマイナス0.05 Vになってしまいます。 しかし、アンプの出力電位は電源(ちょこまカーでは乾電池)の電位以上には変化できませんから、実際には0 Vより下がることはありません。逆に1.5 Vより高い電圧も出ません。これを出力が「飽和」すると言います。 下の図は電圧ゲイン40倍の電圧アンプに入力する信号の電圧振幅を時間とともに変化させたとき、出力電位がどんな波形になるかを示しています。

図:電源電圧による出力の飽和

※実際の回路では上の図のように完全に0 Vや1.5 Vで飽和するとは限りません。負荷抵抗(アンプの出力に接続されている抵抗:この場合は5 kΩ)が小さいともっと小さい振幅で飽和することもあります。

電圧ゲインと負荷抵抗の値

上で計差した電圧アンプは入力振幅に対して出力振幅が40倍になりました。この倍率を電圧ゲインと呼びます。
 上の計算の過程を思い出してください。出力電位どれだけ変化するかは、TR1とTR4のコレクタ電流の差に負荷抵抗(上の場合は5 kΩ)をかけた値でした。つまり負荷抵抗が大きいほど出力の変化が大きくなりますね。このアンプの電圧ゲインは負荷抵抗によって変わるのです。
 もし、モーターを直接この電圧アンプに接続したらどうなるか考えてみましょう。モーターの直流抵抗をテスターで測ってみると5 Ω程度しかありません。もし5 kΩだった負荷抵抗を5 Ω(1000分の1)にしたら、電圧ゲインも1000分の1になるでしょう。 40/1000=0.4となってしまい、増幅どころか、振幅が減ってしまいます。
 ちょこまカーでは残り4個のトランジスタで電流アンプを構成することで、電圧アンプとモーターの間をつないでいます。電流アンプは、入力側は高い抵抗値(入力抵抗)を持ち、出力には低い負荷抵抗の部品を接続することができます。 ちょこまカーの電流アンプの入力抵抗は上で計算したように約5 kΩですが、出力側には5 Ωのモーターをつなぐことができます。

トリマ抵抗器の役割

ちょこまカーのトリマ抵抗器は半導体素子(半導体を使った電子部品:具体的にはトランジスタ(TR1とTR4)と光センサー(PS1とPS2))のばらつき(個々の部品の特性の差)を補正するために使われています。
 上の計算ではトランジスタの直流増幅率はどちらも100としましたが、もしTR1の直流増幅率が200、TR4の直流増幅率は100だったら、トリマ抵抗器で調節することで入力電位がx0.75 V(電源電圧の中心値)の時に出力電位も0.75 Vになるようにできるでしょうか。方程式を立てて計算してみましょう(小学生は結果だけ見てください)。
 トリマ抵抗器のTR1側の抵抗値をRと仮定すると、ちょこまカーに使っているトリマ抵抗器の全体の抵抗値は50 kΩですからTR4側の抵抗値は50 kΩ-Rになります。これらの式を使ってそれぞれのトランジスタのベース電流の式を作ります。 直流増幅率がそれぞれ200と100なので、コレクタ電流はベース電流の式をそれぞれ200倍と100倍した式になります。出力電位が0.75 Vになるということは2つのトランジスタのコレクタ電流が等しければいいのですから、コレクタ電流の式をイコールで結んだ方程式を解けばRが求まります。

図:トリマ抵抗器による電流増幅率の補正

結果はR=33 kΩになりました。求めた値が負になったり50 kΩを超えたりしていないので、補正が可能なことがわかります。

では次に、2つの光センサーに同じ明るさの光が当たっているときの抵抗値が10%違う場合、電圧アンプの出力電位が0.75 Vになるようにトリマー抵抗器で補正できるか調べましょう。こんどはTR1とTR4の直流増幅率は等しいとします。 高電位側の光センサーPS1の抵抗値が1 kΩ、低電位側の光センサーPS2の抵抗値はそれより10%高くて1.1 kΩだとします。このときの明暗差信号の電位は、分圧の式を使うと次のように求まります。
1.5 V × 1100 Ω / (1000 Ω + 1100 Ω) =0.79 V

ただし答えは有効数字2桁で四捨五入しました。こんどはトランジスタの直流増幅率は等しいので、ベース電流が等しくなるようにトリマ抵抗器を調節すればいいことになります。

図:トリマ抵抗器による光センサーの補正

上の図のとおり、トリマ抵抗器のTR1側を18 kΩにすれば補正できることがわかりました。ちなみに、補正した後のベース電流は入力電位が0.75 Vだった場合と同じ6 μAになる性質があります。 また、計算の過程は示しませんが、理論上片方の光センサーの抵抗値に対して他方の抵抗値が50%高い場合まで補正できます。実際にはトランジスタの直流増幅率のばらつきと光センサーの抵抗値のばらつきを両方とも補正しなければなりませんから、光センサーの抵抗値の違いは20%以内に抑えるほうがいいでしょう。

R1の役割は?

R1の役割は、R4, R5とまとめて解説します。

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