電子工作教材ちょこまカーの極意を伝授

R1, 4, 5とちょこまカーの個性


抵抗器R1, R4, R5の抵抗値はちょこまカーの動きの個性に影響します。最初に大まかな話をした後、R1がなぜ電圧アンプの電圧ゲインを変化させるか説明します。

電圧アンプのゲインとR1

後で詳しく説明しますが、電圧アンプにR1を接続すると電圧ゲイン(A点の電圧振幅に対するB点の電圧振幅の比)が下がります。

図:電圧アンプにR1を付けるとゲインが下がる

これを確認したうえで、ちょこまカー全体の動作を復習しましょう。明暗差信号(電圧アンプの入力信号)の電位が中心(0.75 V)の時は両方のモーターが回り、ちょこまカーは直進します。 明暗差信号がある程度中心からずれると片方のモーターが止まり、ちょこまカーの進路が修正されます。

2個のモーターがそれぞれ回転する期間を求める

次の図は電圧アンプの入出力信号の波形(つまりA点とB点の電位の変化)の一例を左に描いてあります。電圧アンプにはR1を接続していない状態で電圧ゲインは約40倍です。B点電位の波形は上下が飽和しています。 図の右側にはモーターM1とM2がどういうB点電位の範囲で回るかを示すグラフ(→電流アンプの項を参照)が横倒しに描いてあります。このグラフはR4とR5が接続されている場合のグラフです。

図:モーターの回転する範囲を求めるために

それぞれのモーターが回転するタイミングを知るには、右側のグラフでモーターが回転するB点電位の範囲を読み取り、左のB点電位の波形がその範囲に入っている期間を求めればいいわけです。

R1なし、R4, R5あり

下の図はそのようにして求めたモーターM1とM2が回転する期間です。両方のモーターが同時に回転している時間の比率について注目してください。

図:モーターの回転する範囲(R1なしR4, 5あり)

R1あり、R4, R5あり

それでは電圧アンプにR1を接続してゲインを下げてみましょう。B点電位の波形の振幅が小さくなり飽和も解消しています。

図:モーターの回転する範囲(R1ありR4, 5あり)

両方のモーターが同時に回転している時間の比率が大きくなりましたね。同じ明暗差信号の振幅に対して、電圧アンプのゲインが低いと両方のモーターが同時に回転する時間が長くなります。
 それがちょこまカーの動作としてどういう意味を持つかというと、電圧アンプのゲインが低いと光センサーの位置が少しずれてもまっすぐ進み続けるということです。こういう特性のちょこまカーは、直線コースではスピードが上がりますが、勢いがついたままカーブに突入すると脱線しやすくなります。 ですからあまり電圧ゲインを下げすぎてはいけません。そもそも電圧アンプが必要になった理由を考えれば、これは当然ですね。
 逆に電圧ゲインがひじょうに高いとどうなるでしょう。光センサーの位置がほんのわずかにずれただけで片方のモーターが止まるようになります。両方のモーターが回っている時に比べてちょこまカーの速度が落ちるのは当然です。いつも左右にちょこちょこ揺れながら走るようになります。

R1あり、R4, R5なし

それでは電圧アンプのゲインは低いままで、こんどはR4とR5を外して両方のモーターが同時に回転するB点電位の範囲を狭くしたらどうなるでしょうか。

図:モーターの回転する範囲(R1ありR4, 5なし)

両方のモーターが同時に回転する時間の比率が再び少なくなりました。

以上見てきたようにR1, R4, R5を付けたり付けなかったり、あるいは違う抵抗値を使うなどすれば、ちょこまカーの動作の個性が変えられます。

R1の意味を理解するには、ネガティブフィードバックという技術を理解する必要があります。以下ではたとえ話を取り入れてフィードバックシステムの概要を学びます。

フィードバックシステムのたとえ話

電圧アンプによく似た動作をする下の図のようなシステムを考えます。

図:ロボット式Y座標アンプ

このシステムの入力と出力は高さです。入力高さと基準高さの差を読み取るロボットと、その差を増幅して出力するロボットで構成されています。入力が0.1ミリメートル下がると出力が10メートル上がるのでゲインは10万倍です。ただし入力と出力の変化の方向は逆向きです。
 このような非常にゲインが大きく入出力の変化の方向が反転しているシステムは、使い方によってゲイン5倍とか10倍とかどんなゲインの増幅システムでも作ることができます。次の図を見てください。棒を使った「フィードバックシステム」です。 フィードというのは英語で「餌をやる」「食わせる」みたいな意味ですね。出力(結果)を入力(原因)のほうに戻して入力しなおすというような意味です。

図:Y座標アンプ+フィードバックシステム

図の左側の矢印の高さ(入力高さと呼ぶことにします)を-10倍に増幅したいとします。入力と出力を棒でつなぎ、入力高さを直接システムに入力するかわりに棒を1:10に分割した点の高さ(内分点高さと呼ぶことにします)を入力します。
 文章がややこしくなるので基準高さを高さの原点とします。入力高さが-1 cmになったとしましょう。このフィードバックシステムは入力高さを-10倍に増幅することを目指しているので出力が10 cmになれば正解です。 もし出力高さが10 cmになれば、ロボットが監視している内分点高さはゼロになります。完全にゼロになると出力側の巨大ロボットが出力を持ち上げている根拠がなくなるのでこれは矛盾ですね。 出力高さが10 cmになるには内分点高さは-1ミクロンになるはずです。実際には出力高さが10 cmより約11ミクロン(サランラップやクレラップの厚さ程度)低い場合にちょうど内分点高さが約-1ミクロンになって釣り合います。
 わずかに誤差があるとはいうものの-10倍がほとんど正確に実現できました。棒を1:10に分割する時の誤差を考えると十分に正確だといえます。
 入力高さや出力高さの値に比べれば内分点高さはほとんどゼロと考えていいですね。実際にはロボットの活躍によってそれが実現されているのですが、この棒はあたかも内分点のところに支点があるシーソーのように動作するというように単純化して考えてもいいでしょう。
 もし巨大ロボットが古くなったのでゲインが5万倍に下がったとか、潤滑油をさしたらゲインが20万倍になったとかいう場合でも、フィードバックシステムを利用すれば誤差が少し変わるだけでゲイン-10倍という値はほとんど変わらないという利点があります。

棒によるフィードバックシステムを数式で解く

高校生以上のみなさんはもう少しちゃんと数式で解いてみましょう。フィードバックシステムを構成する前のゲイン(裸ゲインと言います)を-Kとします。ここでKは正の実数です。

図:棒式フィードバックシステムを数式で解く

最初の式は内分点の座標を求める公式ですね。二番目の式は裸ゲインが-KのY座標増幅器に内分点を入力したということです。 これらの式を連立して解いてみると、K(裸ゲインの絶対値)がn/m(フィードバックシステムで実現したいゲインの絶対値)より十分大きいときには、近似的にフィードバックシステムのゲインが-n/mになるという結果が出ます。

このフィードバック技術は、とくに極性が反転しているのがミソなので、ネガティブフィードバックとか、略してNFBとか、日本語で負帰還とか呼ばれ、理工学では非常によく使われる技術です。 ちょこまカーがコース上を走る動作全体もネガティブフィードバックと言えます。

電圧アンプとネガティブフィードバック

ここでやっと電圧アンプの話に戻ってきました。電圧ゲインが-Kの電圧アンプがあるとします。出力とシステムの入力をRfとRsという2個の抵抗で分圧してアンプに入力します。 分圧の式は棒による内分点と同じ式になり、フィードバックシステムの電圧ゲインも上で使った例と全く同じ形になります。


オペアンプ

ネガティブフィードバックを使うことを前提に作られたアンプのIC(集積回路)があります。Operational amplifier、日本語では通称オペアンプです。

写真:いろいろなオペアンプ

オペアンプには入力端子が2つあります。ロボット式アンプで例えると基準高さの矢印が固定されているのではなく、これがもう一つの入力になっているのです。これを言い換えると、2つの入力の差を-K倍した電圧が出力されるようになっている、ということもできます。Kは10万倍から100万倍程度になっています。

図:2入力ロボットアンプ

オペアンプはちょこまカーの電圧アンプでもそうだったように(といってもはるかに複雑で性能も良い回路ですが)入力端子と出力端子以外に電源端子(ちょこまカーではTR1とTR4のエミッタでした)に電源を接続する必要があります。しかし、回路図が複雑になるのを避けるためオペアンプの回路記号は電源端子を省略する場合もあります。

図:オペアンプの記号

ちょこまカーの電圧アンプ固有の特徴

ところで、ちょこまカーの電圧アンプにはRsに相当する抵抗器が省略されています。下の図のように近似して説明することができなくもありませんが、等価的にRsの役割をするのは光センサーの抵抗値を並列にしたものになります。電圧信号(明暗差信号)も別の回路から来るわけではなく光センサーの抵抗値自体の分圧によるものです。 両方の光センサーともに暗いところにあればRsの抵抗値自体が高くなるので、フィードバックシステムのゲインが下がるという性質があります。 このように、電圧や電流ではなく素子の値自体が変化するシステムを非線形システムと言って一般に解析が難しいのですが、それでもR1を接続することで電圧ゲインを抑制することができるという定性的な性質が変わるわけではありません。