電子工作教材ちょこまカーの極意を伝授

トランジスタと水トランジスタ

 

トランジスタとは

電気回路の中でトランジスタがはたす役割は主に「スイッチング」と「増幅」です。スイッチングというのは手でスイッチを切り替えるかわりにトランジスタに与える電気信号によってトランジスタが電流を流したり止めたりするという動作です。 増幅というのは信号の大きさ(電圧信号の電圧の変化量など)を大きくする作用です。電圧増幅器(電圧アンプ)や電流増幅器(電流アンプ)についてはちょこまカーの回路の説明を読んでください。

図:PNPタイプとNPNタイプのトランジスタ

 トランジスタの材料になるのは半導体です。半導体にはいろいろの種類がありますが現在のトランジスタにはほとんどシリコン(珪素:けいそ)が使われています。シリコンは砂や石英や水晶の主成分であるシリカ(酸化珪素)を還元(酸素を取り除く)して作られます。シリカは地球上に非常にたくさんあるので、シリコンが不足することはありません。
 このページでは半導体がどういう作用をするかについては詳しく説明しません。そのかわりに「水トランジスタ」という架空の装置をイメージしてもらい、それと似た動作をする電子部品としてトランジスタを理解してもらうことにします。水トランジスタの動作原理は半導体のトランジスタとは全然違うのに全体の動作はよく似ているので、本物のトランジスタの勉強を始めるときに役に立つでしょう。

N型シリコンとP型シリコン

 半導体の話はしないと言いましたが、トランジスタにはPNPタイプとNPNタイプという2種類があるという話をするために、N型シリコンとP型シリコンというものがあるということは説明しなければなりません。少しだけ半導体の話をします。
 シリコンの原子には14個の電子があり、原子核の周りを層状に回っていると思ってください。いちばん外側の層に4個の電子が回っています。シリコンの結晶の中ではそれぞれの原子のいちばん外側に回っている電子が4個になっているのが最も安定です。
 ではシリコンの結晶の中にいちばん外側の電子が5個ある原子(リンやヒ素)を少し混ぜるとしましょう。どの程度混ぜるかというと1000個に1個とかそれ以下です。それがN型シリコンです。 5個めの電子は結晶を安定させる意味では余分なので電圧がかかればプラス極の方に移動していきます。電子が移動すると逆向きに電流が流れたことになります。N型というのはnegative(負の)電荷を持った電子が電流の運び役(ただし電流の向きと電子の流れは逆向き)という意味です。
 下の図はそれをイメージするための図です。テーブルにはすべて4個の座席があります。テーブルに置いてあるバナナの数が原子核にある陽子の数です。

図:N型半導体のイメージ

 N型とは逆にいちばん外側の電子が3個の原子(ホウ素やアルミニウム)を少し混ぜるとしましょう。どの程度混ぜるかというと1000個に1個とかそれ以下です。それがP型シリコンです。 電圧がかかると電子はプラス極に引っ張られますが、シリコンだけでできている部分は安定なので電子は動こうとしません。 それに対して不純物原子は結晶が安定するには電子が足りないので電子を欲しがっています。電圧がかかるとその原子よりマイナス側の原子から空席に電子が移動し、不純物原子のいちばん外側の電子が4個になります。 そうすると電子が取られたシリコン原子には空席ができます。その空席がさらにマイナス側の原子から電子をもらいます。
 このようにして実際は電子が次々移動するのですが、空席がマイナス極の方に移動しているようにも見えます。この空席のことをホール(hole)と呼びます。ホールはpositive(正の)電荷を持つ粒子のように動くのでP型と言います。

図:P型半導体のイメージ

PNPとNPN

P型半導体とN型半導体を接合するとダイオードができたりトランジスタができたりしますが、なぜそうなるかについてはここでは解説しません。 トランジスタ(正確に言うとバイポーラトランジスタ)はP型-N型-P型という3層構造になっているもの(PNPタイプ)とN型-P型-N型の3層構造になっているもの(NPNタイプ)があります。 トランジスタにはそれぞれの層からエミッタ、ベース、コレクタという3つの端子が出ています。

水トランジスタ(NPNタイプ)

次の図はNPNタイプの「水トランジスタ」です。

図:NPNタイプの水トランジスタ

エミッタに対してコレクタの水圧が高くなるようにして使います。コレクタとエミッタの間に回転バルブがあり、ラック・ピニオン機構によって押しバネがこれを閉じるように力をかけています。押しバネはまたベースの内側からゴム栓を押さえています。
 エミッタに対するベースの水圧が高まってくるとゴム栓を内側に押します。この力が押しバネの力を超えると、ゴム栓が右に動いて回転バルブを開きます。またベースには少し水が流れ込みます。
 このときベースに流れ込む水の流量に対して回転バルブが開いたことによりコレクタからエミッタに流れる水の流量は100倍程度になるとします。つまり少ない流量で大きい流量をコントロールできます。

水トランジスタ(PNPタイプ)

次の図はPNPタイプの「水トランジスタ」です。動作はNPNタイプの逆ですがいちおう説明します。

図:PNPタイプの水トランジスタ

エミッタに対してコレクタの水圧が低くなるようにして(ということはコレクタに対してエミッタの水圧が高くなるようにして)使います。コレクタとエミッタの間に回転バルブがあり、ラック・ピニオン機構によって引きバネがこれを閉じるように力をかけています。引きバネはまたベースの外側からゴム栓を引き込むように力をかけています。
 エミッタに対するベースの水圧が下がってくるとゴム栓を外側に引っ張ります。この力が引きバネの力を超えると、ゴム栓が左に動いて回転バルブを開きます。またベースから少し水が流れ出ます。
 このときベースから流れ出る水の流量に対して回転バルブが開いたことによりエミッタからコレクタに流れる水の流量は100倍程度になるとします。つまり少ない流量で大きい流量をコントロールできます。

水トランジスタの応用 その1

水トランジスタを使うと少ない流量で大きい流量をコントロールできます。下の図は水トランジスタを使って水力で動く大きい装置の速さを小さいバルブでコントロールしているところです。
 ※水トランジスタという装置は想像上のものです

図:水トランジスタの応用

これとそっくりな電気回路が下の図です。

図:上の水回路に対応する電気回路

試しにモーターに流す電流を10ミリアンペアから100ミリアンペアの範囲で変化させるには可変抵抗器Rの抵抗値はどの範囲で変化させればいいか計算してみます。コレクタ電流が10ミリアンペアから100ミリアンペアなので、ベース電流はその100分の1で0.1ミリアンペアから1ミリアンペアの範囲で変化させればいいですね。
 ここで注意しないといけないのは、ベースとコレクタの間には電源電圧の1.5ボルトが全部かかるわけではないということです。水トランジスタではゴム栓がゆるんでベースに水が流れ出すまでにはある程度の水圧をベースにかける必要がありました。 半導体のトランジスタも同じで、シリコン製のトランジスタでは約0.6ボルトの電圧が必要です。そうすると、コレクタとベースの間には1.5-0.6=0.9ボルトの電圧しかかかりません。0.9ボルトかかったときに0.1ミリアンペアの電流が流れる抵抗値をオームの法則を使って求めると9キロオーム、1ミリアンペア流れる抵抗値は900オームです。 答えはRを900オームから9キロオームの範囲で変化させればいい、です。

水トランジスタの応用 その2

水トランジスタを2段階に接続すると流量を1万倍に増幅することができます。

図:水トランジスタを2段階利用する

図中の流量1に対して流量2は100分の1、さらに流量2に対して流量3は100分の1なので、流量3は流量1に対して10000分の1ですみます。 この水回路はちょこまカーの電流アンプにそっくりですね。

前へ← 水回路でイメージする電気回路 →次へ